最後に食べたものが肌の色になる世界(転)

 

 

僕が中華屋に行って、案の定吐瀉物みたいな肌色になった3日後の朝に事件が起こった。

 

とある地方の中学校で集団リンチによる暴行事件が起きたのだ。

被害者の少年(15)は全治3ヶ月の重傷を負い、現在入院中である。

テレビでキャスターが伝える内容を要約するとこうだ

 

その中学ある地域では、食べた物による肌の色で旧態依然のカラーギャングなる集団を結成し日々自らの勢力を高めるべく抗争に明け暮れていた。

トマトを食べることで赤色をチームカラーとする「啞華伊盧」、ブルーハワイのシロップばかりを飲む「青伊春」、沢庵ばかりを食す「鬼威露」、タピオカのばかりを食らう「黒連合」など様々なチームがあるらしく、暴行を受けた少年はそのうちトマトを食う連中の一員であった。

少年はもともとトマトが大の苦手であり、さらに冷え性であったが友人からの誘いを断ることができずしぶしぶ入会した。

リコピン以外にトマトに含まれる栄養素として代表的なのは「カリウム」だが、これは身体を冷やす効果を持っている。体温は、温度を下げるカリウムと温めるナトリウムがほぼ均等に存在することによって平熱が保たれているのが、トマトの食べ過ぎによってカリウムが増えると、体温が下がる。その結果、腹痛や下痢などの症状をはじめ、ひどい場合には内臓がうまく機能しなくなってしまうこともあり得るので注意が必要なのだ。

少年はトマトを食べ続ける生活にいよいよ耐えられなくなり、トマトの代わりにリンゴを食べた。しかし、リンゴの赤い部分は皮の部分のみであり、身の色は違ったのである。その辺の判断も鈍くなるほど意識も朦朧としていたのであろう、そのことに気づかずにチームの集会に出かけた彼はその場で村八分にされ、ボッコボッコにされたという次第である。

 

この事件は肌の色が起因となる悲しいニュースにとんとご無沙汰だった世界に大きな衝撃をもたらした。

そしてこの食べ物による肌の色の変化という遺伝子組換えを行った世界政府、国家に対して以前から反感を持っていた連中が世界中で一気に暴動を起こした。

中心となったのは秘密結社「全国アレルギーの会」であり、これはなりたい色があるがアレルギーのせいで食すことができない集団である。そのほかにも「乳牛の気持ちを考える会」「色盲シロクロの会」「人目を気にせず食べたいものを食べる会」など全国に支部を持つ集団が加わった。

この暴動により世界は大混乱、スーパーマーケットは荒らされ全国のありとあらゆる食品関連の工場は襲われ、飲食店なども徹底的に破壊された。

 

この大暴動の一端となってしまった被害者少年のコメントは以下の通りである

冷え性の方は、生食ではなく火を通して食べると良いでしょう。加熱したトマトは成分に変化が生じ、逆に血のめぐりを良くしてくれます。この性質を利用すれば冷え性の方でも安心してトマト料理をいただけるでしょう。』

未曾有の大混乱により社会のありとあらゆる機能がストップしてしまった。

僕の通っている大学もその例外ではなく、今日の3限の社会心理学の授業に出席しているはずの時間に、僕は一人暮らしのアパートで買いだめてあったミートソースを使いスパゲッティを食べていた。

 

暖かいトマトはやはり美味しかった。