金ならいくらでもあるつってんだよ!!
さて今日は僕の大学時代の友人であるブルジョアβくんについて聞いてもらおうかな
彼との出会いは僕の大学時代、2年の夏のこと
僕の通っていた大学は都内の一等地、他の追随を許さない金持ち暴力の土地である吉祥寺にその門を構える某S大学である
この大学は生徒数が少ないものの、その精鋭さといったらなかった
末は大臣か博士かなんかのクリエータになって、とにかく優秀だった
ここに通う生徒の親の年収は億を軽く超えていて、僕自身も財閥の跡取りである
GHQによって財閥が解体されたなんて、あんなのウソウソ
僕のひいひいじいちゃんはマッカーサーとマブでよく三鷹にある白木屋で朝まで飲んでたらしい
そんな超ド級の金持ち優秀大学で出会ったのが、ブルジョアβくんだった
大学で必修のラテン語の講義に僕と彼しかいなくて、合計16万もの一万円札で扇ぎ暑さと格闘していた彼と僕はどうしても友だちになりたいと思い、学校内にあるレストランで油淋鶏を奢った、それからの付き合いだ
彼は金持ちすぎて、中央線を定期券(一ヶ月ごと)で利用していたし、それに徒歩であった
ちなみに僕は金持ちすぎて、大学まで1時間をかけて自転車で通っていたよ
ブルジョアβくんのことを端的に表現するとすれば、彼はとても美形であった
肩まで垂らした昆布のような美しい髪とキリリと澄ました目元が印象的な美青年であり
大学で開催されるミスターグランプリはもちろんのこと、ミスコンも制覇していた
大学に通う全ての学生が彼のことを美形と認め、教授陣も彼の顔を見るだけで単位をホイホイと投げた
試しに井之頭公園にいる彼を知らない関係ない24人にアンケートを取ってみると全員が「誰それ(とても格好いいです)」と答えたもんね
まあとにかく彼は美形であり金持ち、そして人気者だった
ただ彼には誰にも言えない秘密があった、それは誰も彼の住んでいる家を知らないていうことだった
ウルトラ金持ちのブルジョアβくんはよく自分の家のことを以下のように語っていた、うろ覚えだけどもね
「僕は母屋と同じ土地にある離れに住んでいるんだ、東京ドーム3つ分の敷地内に母屋から4.5キロ離れた離れにだよ。部屋の中には螺旋階段がたくさんあって一緒に高価そうな猫と暮らしているんだ。毎日パーティーを開催していてどんちゃん騒ぎで大変だよ。まあ金持ちの友達のまたその金持ちの友達、通称モチモチたちがひっきりなし百鬼夜行で金と酒をばら撒いていくんだ。僕は幸せ、なんの苦労もなくて、このままエンジン付きの筏で人生を爆走さ!!」
確かこんな感じだった
周りの学友たちはその話をまるっきり信じていた
なんでかっていうとブルジョアβくんは金を持っているのは当然だけれども
それ以上にセンスがずば抜けていたのだ
例えば洋服なんかも「それどこで拾ったの?」ってぐらい高価そうだったし
小物なんかも「それどこで貰ったの?」ってぐらい抜群のセンス
髪型も「それ切ればいいのに」ってぐらいイケイケだった
つまりめちゃめちゃ信用されていたんだね、優しいんだ彼は
彼の家に興味を持った僕は、彼の後をつけることにした
2、3回は路地を曲がったところで彼が待ち伏せていたり突然走り始めたりして見失ってしまったけれども、ついに彼の家を突き止めた
僕がどうやって彼の家を見つけたかと言うと、彼の携帯に忍び込んで位置情報から見っけたんだ
今の時代そんなこと簡単簡単
その頃の僕は大学にいる全ての人の個人情報をせっせと集めまくっていたんだけれど、あんまりみんなが携帯電話に向かってピコピコやっていることが下らなすぎってことがわかった大学3年の冬にはもうやめてしまったんだ
実際彼の家はとってもブルジョワだった
みんな「グレートギャツビー」って映画知ってる?ディカプリオが主演した金持ちの映画なんだけれどあんな感じ
いやあれ以上だったね、ホグワーツみたいな家がたくさん連なっていてその中で彼の住んでいた家はまるでパルテノン神殿みたいな感じだった
とにかく金持ち!溢れる富裕層!直感的にこいつは味方にしておいたほうがいい、そんなレベルの豪華さだった
百鬼夜行のモチモチどもに紛れて彼の住んでいる家を目指した
すると一箇所だけ、床の抜けている部屋を見つけたんだ
その部屋は金持ちの部屋にはそぐわない、まさに異様な部屋であった
なんだか生臭い異臭がするし、とっても薄暗い、ビニールに入ったゴミらしきものが大量に集められている
ボロボロの汚い布団が覆ってはいたが、木で作られた床が抜け落ちているのは明らか
布団の下には漏れてきた水を吸い取るためだったのか、近所のスーパーの広告や新聞紙なんかが敷かれていて、とっても見窄らしい感じ
しかも布団をよーく見てみると、なんだか黒いシミがたくさんあってそれがモゾモゾと動いていた、なんだろうと思って顔を近付けてみるとそれは大量のノミとゴキブリの赤ちゃんであった
そこら中にそいつらのフンや死骸なんかも転がってて、スリッパなしじゃとても歩けない
ゲロゲロ!!気持ちわるーなんて思ってその部屋を出ようとしたところで、酒に酔って明らかにダメになっているブルジョアβくんと出くわした
金は腐る程あるだろうし、実際に螺旋階段もたくさんあった、高価そうな猫もいるみたいなのになんでこの部屋の床を直さないの?余裕で出来るでしょ?とは聞けなかった
なんでかって言うとその部屋の異様な状態もそうなんだけど、腐敗して抜け落ちた床から人の腕みたいなものが見えた気がしたんだ
もうほとんど骨になていて、あとは少しの腐肉とたくさんの蛆を見た気がしたんだよ
なんだか憎悪とこの世の腐臭見たいのを一身に受けちゃったみたいな穴から、人間の気配を感じたんだ、まだ生きていたいのかもしれないね
そう言えば彼から家族の話って聞いたことないななんて考えていたらさ
ブルジョアβくんが僕なんか居ないみたいに腐敗した床をみつめながらこういったんだ、
「君あの穴を見たのかい?僕はどうしてもここから出たかったんだけども他に方法を知らなかったんだ。ノミとかゴキブリはもともと苦手だったんだけど、穴があったら繋がったんだ。お酒もタバコも控えて、朝は8時に起きて夜は10時に寝ようとしたんだけどダメだった。僕はずっとコップを持っていたんだけれども、誰もメロンとか梨を持ってきてくれなくてさ。好きな子には好意があったんだけど、みんなダメになるんだ。僕は音楽が好きなんだけど、あれさ色鉛筆が必要だろ?だから耳をホッチキスで止めたんだ、バチンバチンってね。で、鏡を見てみたらさ両目にネズミが入ってるんだよ。いっつもタラコが追いかけてくるし、屋根に登ると首が落ちてくるんだ。髪の毛を綺麗にするクシだったり綿棒がさ、僕を攻撃してくるんだ。どうしたらいいんだろうかこのマニキュア。この話は机の上の話だからね?頼むよホントに・・・」
確かこんな感じ、うろ覚えだけどね
彼は本当に本当に悲しそうだった、もしかしたら泣いていたのかもしれない
辺りが暗くてよく分からない
僕は彼の話を聞きながら、ああもうダメになっちゃったんだなと思ってすごく羨ましかった
そこで彼をそっと抱きしめてから、僕は彼の豪邸をあとにした
玄関の扉に手をかけようとした時後ろから「金ならいくらでもあるつってんだよ!!」って叫び声が聞こえてきたから僕は「そうだよね立派立派」と呟きながら帰路に着いた
その後、僕はブルジョアβくんと会っていない
僕はと言うとそれまで住んでいた国分寺の超高級ツイン高層マンション最上階を引き払い実家のバッキンガム宮殿(のような)の200坪の自室に戻り、それまでおこずかいとして毎月貰っていた4000万を親から断り、アルバイトを始めた
なんだかとっても快調であります
終わり